おいしさ・健康

アラゲキクラゲを知っていますか?

みなさん、アラゲキクラゲというきのこをご存じでしょうか?

アラゲキクラゲ発生の様子(菌床栽培)

キクラゲなら知っているけど、キクラゲとは違うの?という方が多いのではないでしょうか。実際に日本国内の統計資料において、キクラゲ、アラゲキクラゲ、シロキクラゲは、「きくらげ類」とまとめられています。しかし、これら3種類のきのこはそれぞれ違う種類のきのこです。キクラゲAuricularia auricula-judaeとアラゲキクラゲAuricularia polytrichaはともにAuricularia属ですが、種名が異なります。シロキクラゲにいたっては、学名はTremella fuciformisであり、分類上大きく異なるきのこです。しかし、日本国内では一般的にどれもキクラゲと認識されており、アラゲキクラゲとキクラゲは、専門家でない人にとっては、どちらも同じに見えると思います。ですが、よく見るとアラゲキクラゲは、きのこ表面の一方に短い毛がたくさん生えていることが分かります。この毛が、白く見えることから、裏白キクラゲと呼ばれたりもします。また、アラゲキクラゲには、一般的な黒いアラゲキクラゲと白色変異種である白いアラゲキクラゲがあり、白いアラゲキクラゲをシロキクラゲと勘違いされることも少なくありません。

乾燥アラゲキクラゲ

少し前までは、キクラゲ類はいずれも日本国内でほとんど生産されておらず、外食産業で使われているものも、国内のスーパーで手に入るものも、ほぼすべて中国産でした。しかし近年、食材の国産需要が高まりキクラゲ類についても国産品が求められるようになりました。それに伴い、栽培が比較的容易なアラゲキクラゲが日本国内で盛んに生産されるようになり、その国内生産量は15年前の約26倍(キクラゲ類国内生産量:2007年114.8 t(国内消費量の0.4%)、 2022年2,997.2 t(国内消費量の10.8%))となっています。そのため、アラゲキクラゲについては国産の乾燥品だけでなく、生の商品も以前に比べて入手しやすくなりました。一方で、キクラゲやシロキクラゲについては、現在でもそのほとんどが外国産(中国産)です。

このように、国内産が入手しやすくなったアラゲキクラゲですが、シイタケやエノキタケのように長年身近にあったきのこではないせいなのか、あるいは形や味、食感などが一般的なきのことは異なっているせいなのか、実際の理由は分からないのですが、まだまだ食卓に上がる機会が少ないようです。そこで今回は、アラゲキクラゲを他のきのこ類と同じように身近な食材として使っていただけるように、健康成分から食べ方、簡単なレシピまでを紹介したいと思います。

~アラゲキクラゲの成分について~
食品に含まれている栄養素の分類として、「五大栄養素」、「三色食品群」、「六つの基礎食品」(参考:農林水産省 実践食育ナビ)などがあります。この中で「三色食品群」は、栄養素の働きから、食品を以下の3つのグループに分けるものです。
「赤」:体をつくるもとになるもの・・・肉、魚、卵、牛乳、乳製品、豆など
「黄」:エネルギーのもとになるもの・・・米、パン、麺類、イモ類、油、砂糖など
「緑」:体の調子を整えるもとになるもの・・・野菜、果物、きのこ類など

この分類で、きのこ類は「緑」の体の調子を整えるもの、に分類されます。この「体の調子を整える」ことに関わると考えられる栄養素のうち、きのこ類に多い食物繊維とビタミン類を表1にまとめました。

きのこ類は野菜類に比べ、ビタミンB類の含量がやや多いのですが、アラゲキクラゲのビタミンB類含量はそれほど多くありません。しかし、食物繊維総量とビタミンD含量は全ての食品の中でもトップクラスです。
食物繊維は、その摂取量とさまざまな生活習慣病の発症率や死亡率との関連が研究されてきており、例えば、心筋梗塞の発症及び死亡、脳卒中の発症、循環器疾患の発症及び死亡、2型糖尿病の発症、乳がんの発症、胃がんの発症、大腸がんの発症などの疾患と有意な負の関連(食物繊維摂取量が多いほどこれらの発症率や死亡率が低くなる傾向)が報告されています。このように健康維持に重要な食物繊維を、きのこ類は豊富に含んでいます。日本食品標準成分表に基づいたアラゲキクラゲの食物繊維量をイメージしやすいように、よくスーパーで見かける千切りキャベツの食物繊維量と比較してみましょう。図1の乾燥アラゲキクラゲ1個の重さは4.7 g(生重量に換算するとおよそ47 g)で、食物繊維総量は3.7 gになります。一方、スーパーで見かける千切りキャベツ150 g入りの食物繊維総量は3.0 gとなります。千切りキャベツ一袋を食べるよりも乾燥アラゲキクラゲ1個を食べた方がやや多くの食物繊維を摂取できることになります。厚生労働大臣が定める「日本人の食事摂取基準」2020年度版の食物繊維の1日の食事摂取基準は、18~64歳の成人男性で21 g 以上、15~64歳の成人女性で18 g 以上となっています。これは、乾燥アラゲキクラゲでいうと、一日に26.4 g (男性)または22.6 g (女性)で、図1の乾燥アラゲキクラゲ5個~6個の量になります。

ビタミンDは、体内で活性型のビタミンDに代謝されます。活性型ビタミンDが作用することによって、腸管や肝臓でカルシウムとリンの吸収が促進され、健康で丈夫な骨が作られます。近年複数の研究によって、ビタミンDの栄養状態が転倒、ガン、心血管疾患、糖尿病、メタボリックシンドロームなどと関係することが示唆されています。また高齢者において、血中ビタミンD(25-OH-ビタミンD)濃度の不足状態が、フレイル(高齢者が健常な状態から要介護状態になるまでの中間的な状態)の発症リスクとなるとされています。さらに、ビタミンDは免疫調節作用や抗炎症作用をもつという報告もあり、ビタミンDの最適な血中レベルを維持することは、健康状態全体を改善しサポートする重要な要素の1つであることが示唆されています。一方で、2019年4月~2020年3月に東京都内で健康診断を受診した男女5518人を対象に、血中ビタミンD濃度(25-OH-ビタミンD濃度)を測定・調査した研究 (Miyamoto et al. The Journal of Nutrition; 153, 1253-12964, 2023)では、97.8%の人で血中の25-OH-ビタミンD濃度が30 ng/mLより低く「不足」状態であり、さらに78.5%の人は20 ng/mLより低い「欠乏」状態であったと報告されています。このように、多くの日本人で不足していると思われるビタミンDですが、日光浴をすることによって、皮膚で合成されます。しかし十分に日光に当たる機会が少ない人は、食事から摂取する必要があります。魚介類やきのこ類は、有用なビタミンDの摂取源です。きのこのビタミンDは、人と同じように太陽の光(紫外線)に当たることで合成される成分です。近年市販のきのこ類の多くは、施設で栽培されており、乾燥きのこ類も昔のように天日乾燥ではなく、機械で乾燥されたものがほとんどです。紫外線を当てたり、天日干ししたりすることで、ビタミンD含量を増やして販売されているものもありますが、施設栽培されたきのこ類の多くは、期待するほどビタミンDが含まれていません。そこで、ちょっとひと手間ですが、買ってきたきのこ類を直接天日に当てることをお勧めします。生のアラゲキクラゲを天日に当てた時のビタミンD含量の変化を図2に示します。

図2 アラゲキクラゲを天日干しした時のビタミンD2含量の変化

図のように、日に当てる前のアラゲキクラゲのビタミンD含量は、検出できないくらい少なかったのですが、1時間で乾燥重量1 gあたり3.7 μgまで増えました。つまり、乾燥重量100 gでは370 μgとなり、表1の日本食品標準成分表の値の2.5倍以上となりました。ビタミンDの「1日の食事摂取基準」における目安量は、18歳以上の男女ともに8.5 μgなので、上記のアラゲキクラゲであれば乾燥重量で2.3 gに相当します。これは、生のアラゲキクラゲを天日干しした時のデータですが、乾燥アラゲキクラゲに日光を当ててもビタミンD含量は増えます。アラゲキクラゲには、図2のように毛が生えて白っぽく見える面と黒色のツルツルした面がありますが、ビタミンDを増やしたいときは、黒色のツルツルした面に日が当たるようにした方が、ビタミンDが効率的に増えます。ちなみに、シイタケを日に当てるときは、ヒダの部分に日が当たるようにした方が、ビタミンDが良く増えます。

~乾燥アラゲキクラゲの戻し方~
乾燥アラゲキクラゲは乾シイタケに比べると、ずっと短時間で戻ります。30分から1時間程度の水戻しで使うことができます (図3)。

一口大でも千切りでも◎

スープなどの汁物であればもう少し短くても大丈夫です。ただ、コリコリした食感よりも柔らかい食感が好みであれば、一晩(8時間)以上の水戻しがお勧めです。ただし、品質によって長時間水戻しをしても食感が柔らかくならないものもあります。品質の良いものであれば、8時間程度水戻しをすると、約10倍の重さになります。また、お湯を使うと、より短時間で戻ります。一般的な乾燥アラゲキクラゲの場合、戻した後、必ず加熱調理をしてから食べてください。また、水戻しが面倒な方は、まとめて水戻ししたものを適当な大きさにカットし、小分けにして冷凍しておくとすぐに使えて便利です。

~アラゲキクラゲの簡単お手軽レシピ~
☆彡 アラゲキクラゲと冷凍肉団子の甘辛煮
水戻ししたアラゲキクラゲを適当な大きさにカットし、市販の肉団子と一緒に水、しょうゆ、みりん、酒でさっと煮るだけ。肉団子の旨味がアラゲキクラゲに浸みて美味しくなります。アラゲキクラゲは一般的な煮物料理にも使えます!

 

 

☆彡 アラゲキクラゲのサラダ
水戻ししたアラゲキクラゲを千切りにして数分茹でます。ザルにあげて粗熱をとり、お好みの野菜と合わせてドレッシングをかけて出来上がり。海藻サラダのような感覚で食べることができます!

 

 

 

☆彡 アラゲキクラゲご飯
①炊き込むアラゲキクラゲご飯
水戻ししたアラゲキクラゲ粗くみじん切りにし、ご飯を炊く直前に炊飯器に投入。香りや風味が少ないので、雑穀ご飯のような感覚で食べることができます。
②混ぜ込むアラゲキクラゲご飯
水戻ししたアラゲキクラゲを粗くみじん切りにし、少量のごま油と塩を加えて、電子レンジで1~2分加熱。しらすやちりめんじゃこも一緒にご飯に混ぜ込むと、カルシウムも取れてバッチリ!ビタミンDとカルシウムの組み合わせは、相性抜群です。青のりを加えても◎。

 

☝きのこ類は、栄養面において小魚や乳製品などカルシウムを多く含む食材との組み合わせがお勧めです。また、ビタミンDは、水よりも油に溶けやすい性質をもつので、油を使った料理に用いると体内に吸収されやすいと言われています。

アラゲキクラゲなどきのこ類を使ったレシピをクックパッドの「しい太くんのキッチン」でも紹介しています。

作野えみ (菌蕈研究所・上席主任研究員)

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