環境への取り組み

はじめに

きのこの栽培は、丸太やオガ粉などの木質資源を活用して行われ、栽培資材として健全な状態に管理された森林は、CO₂吸収源として温暖化抑制に寄与しています。また、樹木が土壌に根をしっかりと張ることで、大雨などによる土砂の流出を抑止し、落ち葉などの有機物に富んだ土壌は、山の貯水タンクとなって私たちに水を供給してくれるとともに、豊かな森林生態系を育みます。また、森林からにじみ出る栄養分は川や海にまで運ばれ、プランクトンや海藻が増殖し、魚などの海の生き物が増えて豊かな生態系が維持されます。

きのこ栽培は森林資源を利用しながら陸や海の環境を守る循環型農林業といえます。私たち日本きのこセンターは、きのこを美味しく食べていただくことが豊かな地球環境を維持することにつながるとの信念をもって、人と環境にやさしいきのこの栽培技術の研究開発に取り組んでおります。

60年以上にわたる原木栽培用きのこの育種と栽培技術の開発

原木栽培は、主に広葉樹の丸太(原木)を材料とする栽培方法です。きのこ栽培のために伐採された広葉樹の切株からは新たに木の芽が芽生え(萌芽更新)、15年程度で若くて立派な木に成長します。下草刈りなどの手入れを続けることで萌芽が元気に成長し、山の環境を良い状態で維持することができます。日本きのこセンターは、里地里山における持続可能な循環型農林業のさらなる進展に資することを目的に、より美味しく、より育てやすいきのこ品種と栽培技術の研究開発に注力しています。

国内の林産資源や地域資源を活用した菌床用きのこの品種と栽培技術の開発

菌床栽培は、広葉樹や針葉樹のオガ粉や米ぬかなどを材料とする栽培方法です。近年になって、オガ粉の代わりにコーンコブ(トウモロコシの芯材)やコットンハル(綿の種子殻)などの輸入資材を使用する生産者が増えてきました。
日本きのこセンターでは、農業生産や食品製造の際に出る副産物などの地域資源をオガ粉に加えてきのこ栽培に活用する技術の開発に地元企業などと協力して取り組んでいます。

担子胞子による生産者の健康被害の解消に有効な無胞子性きのこの開発

きのこの施設栽培において、きのこに形成される大量の胞子が様々な問題を引き起こす原因となっています。一つ目は生産者が胞子を大量に吸引することで発症する呼吸器疾患です。通称“きのこ肺”と呼ばれ、半世紀近く前から発症の報告があり、重大な問題として知られています。二つ目は、栽培施設の汚染です。栽培施設の壁面や換気扇などに胞子が付着するため、度重なる清掃が必要です。さらに、付着胞子を食べるダニなどの小動物が媒介する雑菌汚染も問題となっています。
日本きのこセンターでは、これらの問題解決のため、ヤナギマツタケとエリンギの無胞子性品種を育成するなど、生産者の労働環境の改善や環境への負荷低減に有効な技術等の開発を推し進めています。

アラゲキクラゲ生産における有機JAS認定取得

日本きのこセンターでは、「きのこ王国とっとり」の実現に向けて2013年からアラゲキクラゲの産地化と新品種の開発に取り組んできました。2020年には、日本きのこセンターを含め、県下の多くの生産者が有機JAS認証を取得し、栽培資材や栽培環境の徹底した安全管理を実施するとともに、環境負荷を軽減した栽培に取り組んでいます。また、アラゲキクラゲ生産において発生する廃菌床の活用に関する研究や農薬を使用しない病虫害対策に関する研究にも取り組んでいます。

きのこ遺伝資源の収集と保存・きのこ鑑定

日本きのこセンター菌蕈研究所には、野生のきのこ種を調査・分類する研究分野を設けています。全国各地から収集した野生きのこを遺伝資源として液体窒素保存するとともに、乾燥標本として保存しています。また、きのこ狩りやきのこ観察を目的に山へ入る際の注意点や正しい採集方法等のアドバイス、一般向けの食毒きのこの鑑定など、人々が身近にある里山の自然へ目を向け、自然と親しく交わるお手伝いをさせていただいています。

きのこの自然界での役割や食育をテーマとした講演会の実施

一般の方や教育機関・地域団体を対象に「きのこってなぁに?」「きのこの自然界での役割」「きのこの健康機能成分と美味しい食べ方」「野生きのこの楽しみ方」など、きのこの基本的なことや健康の維持増進に役立つお話などの講義を行っています。幅広い世代の方に、きのこの世界を知り、より関心を深めていただくための活動に励んでいます。

きのこ栽培における環境負荷軽減への取り組み

原木栽培に使用する資材の一部を生分解性プラスチック等の土に返る素材を用いた代替製品へ切り替えるための研究や、きのこの収穫後に大量に出る廃菌床の活用研究など、地域の農林業団体や教育機関と連携して、持続可能な環境保全型・循環型きのこ栽培の実現を目指した研究をすすめています。

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