約60年間発行された機関誌「菌蕈」の表紙には数多くのきのこたちが登場しました。このたび野生きのこの紹介誌として不定期連載します。
-きのこをみて もりをみる-
マイタケの森

倒れてから何十年も経過している苔むした倒木から生えたマイタケ。この倒木はカタウロコタケが密生して他のきのこがほとんど生えないので驚きもひとしおでした。傘の一枚一枚が大きくて近寄るとマイタケ独特の香りを放ち、それに釣られてかコバエやキノコ虫もたくさん集まっています。木は枯れて終わりではありません。
マイタケが生える環境
鳥取県では一般的にブナ・ミズナラが分布する標高の高い地域(700~800 m以上)に発生します。分布は北海道から九州の北半球温帯。ミズナラ以外にもクリ、シイノキ、タブノキ、クヌギ、カキなどから生え、大木に限らず若い木や倒木からも生えることがあります。通常は樹木の根回りに発生し、芯材を腐朽させる根株腐朽菌(白色腐朽菌)です。弊所の過去の記録には、海沿いの鳥取市白兎周辺で採れたという記録があります。標高や樹種にとらわれず視野を広げて探してみよう。マイタケ Grifola frondosaは分類学的にはタマチョレイタケ目(Polyporales)、マイタケ科(Grifolaceae)に所属します。傘の裏の子実層は多数の管孔(かんこう)があり、その孔の壁面で胞子が作られます。大雑把に言えばサルノコシカケの仲間と思ってよいです。木材腐朽菌ですから原木や大鋸屑を用いた菌床栽培が可能です。日本産のマイタケ科には本種のほかに今関(1943)によるシロマイタケ が報告されています。
栗林とマイタケ
この写真の林は一見ミズナラ林のように見えましたが、樹形や樹肌そして葉がどこか違いました。あたり一面には大きく膨らんだ栗がたくさん落ちていましたので、ここは栗の野生種であるシバグリ*1林だとわかりました。栗は縄文時代から栽培もされていて日本人には非常になじみのある樹木、食糧でもあります。マイタケは栗からも生えるとされていますから、少し期待して30分ほど斜面を見上げながら太いシバグリの根周りを観察していると、本当に二株のマイタケを見つけました。この辺りは炭焼き窯の石垣が残っていて、過去に伐採された切り株から何本も萌芽更新したホウノキなどが散在する二次林です。昔はこのような太さの栗が民家の柱などに使われていたのでしょうか。図鑑の記述のとおり栗から生えるマイタケと立派な栗林を目に焼き付けた日でした。
*1ヤマグリとも呼び、各種栽培栗の原種です。

味良し、香り良し、食感良し
マイタケにはビタミンBやカルシウムの吸収を助けるビタミンD2が多く含まれる栄養価の高いきのこです。タンパク質分解酵素も含まれるので生の肉を柔らかくする作用が知られています。良い旨味があり、炊き込みご飯、天ぷら、ホイル焼き、炒め物などいろいろな料理にあいます。きのこは食物繊維の塊ですから、きのこを料理に一つ添えるとバランスの良い食事が実践できることでしょう。

写真提供 K.T.
マイタケの野菜炒め、手作りハンバーグ、シバグリご飯、そして柿の木の箸で秋を味わってみました。
豊かな森を永遠に
扇を広げたように雄大に腰を構える扇ノ山(標高1310 m)。緩やかな斜面には鳥取県でも有数の美しいブナ・ミズナラ林が広がり、特に厳冬期の山スキーの名所として名高いです。稜線には火口跡とされるものが残っていたり、赤や黄色の岩石や地層があったり、また化石が出ることでも知られていて太古からの歴史を感じます。緩やかな山容とは裏腹に谷は極めて急峻で、いくつものV字谷が発達し、大小の美しい滝が形成され、沢登り(シャワークライミング)の穴場としても知られています。

川のせせらぎ、森を抜ける風の音や鳥の声を聴きながらこの森をさらに進むとミズナラの大木に熊棚がありました。森を訪れる我々の姿や行いを森の住人はどう感じて見ているのでしょうか。
この標高800 m前後の源流域は、過去の伐採を免れた大木のブナや幹周り10 mはありそうなトチノキ、そしてサワグルミが混立する渓畔林*2です。様々なラン科植物、独特な花を咲かせるザゼンソウ、イヌワシやクマタカ、夜の森に響くトラツグミ、川辺で美しく鳴くアカショウビン、かわいらしいヤマネ、イワナなど絶滅の恐れのある動植物等の生息地であり多様な生物の宝庫となっています。自然界は大まかに分けて動物、植物、菌類からなり、それらが互いに作用しバランスを保つことで豊かな生態系が保たれています。毒があるからとか、人間には不要だとか、目に見えない微生物であろうと何一つ自然界に不要なものはありません。仮に一つ欠けてしまえば予想できない変化が生まれることでしょう。
*2山地の渓流沿いに発達し、絶えず川の影響を受ける森。
今年の森はクリ、ミズナラのどんぐり、山葡萄、サルナシなどが豊作。猟師さんから頂いた熊肉は、森に食べるものが豊富だったせいか脂ノリが大変良く、すき焼きや鍋にすると最高でした。扇ノ山は多様な生き物と私たちの生活、そして日本海を静かに見つめ、やさしく時に厳しく育んでいます。その豊かな森がソーラーパネルや風車になることなく、鳥取県民いや地球の財産として末永く残ってくれることを切に願いたいものです。日本人が忘れつつある森への畏敬の念を再び認識して、その恵みを感謝し、少しばかりいただいてみてはどうでしょうか。持続可能な社会の答えがこの辺に埋もれているような気がします。

マイタケが生えるクリ林は晩秋にクリタケがお目見えします。扇ノ山で進む環境変化の一つ、鹿の「食害」によって林内の下草がなくなり、いたるところに獣道(矢印)が見えます。

写真提供 K.T.
やわらかい鹿肉をローストビーフに。

写真提供 K.T.
きのこ採りの注意
森の住人である熊は生きるため子育てのために必死です。美味しいきのこや山菜が採れる所すなわち「豊かな森」は熊が餌を探している場所です。単独の藪漕ぎ、無我夢中なきのこ探しや収穫は避けましょう。熊対策をしつつ常に五感を駆使して周りの気配を感じながら謙虚に山を歩くことを実践してほしいと思います。もう一つ注意すべきはやはり毒きのこです。きのこを覚えるためには写真撮影はもちろん、きのこを持ち帰ってスケッチをして特徴(色、形、匂い、味)や生態(季節、生え方、植生など)を書き出してみるとより記憶に残ります。そして普段からきのこを見る回数を重ねることがきのこを覚える近道です。
菌蕈研究所 主任研究員
牛島 秀爾
1980年生まれ。山口県岩国市出身。工業高校卒。
幼少の頃より山ときのこに親しむ。専門はきのこの分類。
夏から秋はきのこ観察会の講師などを担当。鹿野河内川河川保護協会で渓魚と川の保護・保全活動に参加。きのこアドバイザー(日本特用林産振興会)。
2025年から扇ノ山の懐に移住。著書に「きのこ図鑑 道端から奥山まで。採って食べて楽しむ菌活」(つり人社)。