(財)日本きのこセンター 長沢栄史

きのこはどのようにして栄養を取り、どうやって繁殖しているのでしょうか。
きのこの日々の生活を知ると、植物や動物の生活も実はきのこと密接に結びついていることが分かります。

  1.腐生・共生・寄生
  2.菌糸集団のひろがり
  3.胞子によって子孫を増やす


1.腐生・共生・寄生
 きのこは、水中やきわめて寒冷あるいは乾燥のきびしい場所を除けば、地球上のいたるところに暮らしています。多くは森や林を住みかとしていますが、草原や畑、生ごみの集積所や堆肥置き場などを住みかとしているものもあります。きのこが各々の場所を好んで住みかとしているかどうかは別にして、少なくともそこにはきのこの食物となるものがあることだけは確かです。

 では、きのこはいったい何から栄養を得て日々の生活を営んでいるのでしょうか? きのこの食物は、実は私たち人間(動物)と同じように他の生物(主に植物や動物)の生産した有機物なのです。これはきのこが植物やある種の細菌のように無機物を食物として体内に取り入れ、光合成や化学合成を行って活動や体をつくるために必要な有機物を自らの力でつくることができないためです。他の生物の生産した有機物を食物として利用することを従属栄養といいますが、きのこの従属栄養には、大きく分けて、(1)腐生(死物寄生)、(2)共生、(3)寄生(活物寄生)という三つのタイプがあります。

 (1)の腐生は、倒木や枯れ木、落ち葉、動物の糞や骨などに生えるきのこの栄養法で、植物や動物の遺体、排泄物などの有機物を分解して、吸収し、栄養とすることをいいます。きのこにみられるもっとも一般的な栄養法で、私たちになじみの深いシイタケやナメコなど、倒木や枯れ木に生える食用きのこはいずれも、この腐生という栄養法をもっているのです。森が枯れ木や落ち葉でいっぱいにならないのは、多くの腐生性のきのこや細菌の作用によって、材や葉を形づくっている有機物が分解され、やがて土に還っていくためです。物が腐るということは、私たちにとってときに厄介な問題を引き起こしますが、自然界における物質の循環という観点からはきわめて重要な現象といえます。

 (2)の共生は、二種の生物間でたがいに栄養のやりとりをして、相互依存の生活をすることをいいます。きのこで最も一般的にみられる共生は、きのこが樹木の細根に菌糸を絡ませて外生菌根という特殊な構造をつくり、菌根を通じて樹に水やリン、カリといった無機養分を供給するかわりに、樹から光合成産物の有機物を栄養としてもらうというものです。菌根をつくるきのこを菌根性のきのこ、あるいは単に菌根菌と呼んでいます。

 菌根の形成は栄養面で樹木を助けているばかりでなく、植物ホルモンの分泌をうながして樹木の成長を促進し、また、乾燥や有害な微生物から根を保護する役割も果たしているのです。アカマツに菌根をつくって共生するマツタケやハツタケ、アミタケ、シモコシなどが菌根性のきのこの代表的なものです。菌根性のきのこは、林を構成している樹の種類によって発生する種類が左右されます。これは、きのこがどのような樹を菌根形成の相手に選んでいるかということと、密接な関係があります。

 (3)の寄生は、生きた植物や動物から一方的に栄養分を摂取する方法ですが、きのこではあまり一般的ではありません。寄生を受けた植物や動物(宿主)はやがて衰弱して死に至ります。ナラタケ(樹の根に寄生)や冬虫夏草類(昆虫やクモ類、ときにはきのこであるツチダンゴ類に寄生)にその例をみることができます。

2.菌糸集団のひろがり
 きのこの暮らし方は、その体のつくりとも密接な関係をもっています。きのこの本体は菌糸と呼ばれる細い糸のような構造物が多数集まり、クモの巣のようにたがいに連絡してできていますが、1本1本の菌糸は管状の細胞が一列に連なったものです。菌糸は非常に繊細で1ミリメートルの数百分の一の太さしかありません。きのこは通常、体(菌糸の集合体)を土の中や枯れ木、落ち葉の中などに隠していますが、それは体をつくっている菌糸が繊細で乾燥や熱に弱いためなのです。しかし、細い糸状の体は反面、狭い空間に容易に入り込んでいけるという長所をもちます。また、管状の構造は体の表面積を大きくするのに役立ち、体表面を通じての養分吸収に大変都合が良いのです。

 菌糸は先端において成長し、さかんに分岐を繰り返しながら伸長し、しだいに大きな集団を形成します。きのこでは、この一つの菌糸集団が一つの個体であり、集団の拡大がすなわち個体の成長なのです。集団が大きくなると、中心の古い部分では細胞が壊れ生命力が失われますが、周辺部の菌糸先端では常に新しい菌糸細胞がつくられていきます。

 1992年、アメリカの研究者によって、アメリカ合衆国ミシガン州の広葉樹林の中に、一つの個体で広さ15ヘクタール、重さ推定約100トンの体をもち、推定年齢約1500年に達するヤワナラタケというきのこが存在することが報告され、世界最大級の生物として話題になりました。菌糸の生育に適した温度、湿度、水分などの環境条件や栄養分となる食物が安定的に与えられるなら、きのこはこのように1000年以上もの長い間、成長を続けることが可能なのです。

3.胞子によって子孫を増やす
 体である菌糸の集団に一定の刺激(急激な温度変化、栄養分の欠乏など)が与えられると、集団の所々で菌糸が密に集合して組織化し、繁殖器官である子実体がつくられます。この子実体が一般に「きのこ」と呼ばれているものですが、私たちが通常目にしたり食べたりしている「きのこ」は、実は生物としてのきのこの体のほんの一部にしかすぎないのです。花の咲く植物に例えると、子実体は花に相当し、一方、きのこの本体である菌糸の集団は葉や茎あるいは幹、根に相当するものなのです。植物では花でやがて繁殖のための種子が作られるように、子実体では、きのこの繁殖の役割を担う胞子がつくられます。胞子は非常に細かいので顕微鏡を使わないと見ることが出来ませんが、きのこの種類によって形や模様、大きさがさまざまに異なります。多くのきのこはこの胞子をさまざまな方法によって体から飛ばし、風に運んでもらっていますが、なかには胞子を飛ばす能力を失い、昆虫や他の動物の助けを借りて胞子の分散を図っているものもあります。例えば、きのこのなかにはフランス料理に使われるトリュフ(セイヨウショウロ類)、また、ショウロやツチダンゴの仲間のように、地中に子実体をつくるものがありますが、これらでは胞子を飛ばす能力が無く、きのこを食べる昆虫や動物によって胞子を運んでもらっていると考えられています。

 きのこの暮らしは、食物や繁殖などの関係を通じて、さまざまな植物や動物と密接に結びついています。それはまた、植物や私たち人間を含む動物の暮らしも直接、あるいは間接的にきのこと深く結びついていることを意味しています。三者はこの地球という生態系のなかにあって、運命共同体を形成しているのです。きのこの広場に戻る

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